遺伝子治療の世界的動向
現在世界において遺伝子の解明と共に、遺伝子治療も著しく発展している。遺伝子の新しい解明は、世界中で日々発表されており、解明された数は計り知れません。しかし、これだけ解明され始めた遺伝子情報ですが、全体的にはまだほんの一部に過ぎません。遺伝子の解明と共に、遺伝子治療も国を挙げて、臨床実験を行っています。
下記のグラフは、国立医薬品食品衛生研究所で発表した2010年までに世界でおこなわれた、遺伝子治療の、臨床プロトコール承認件数とその比率です。
プロトコール承認数の比較表からもわかるように、アメリカが一番多く、1,084件で全体の約2/3(65%)を占めています。アメリカ以外では、イギリス(197件)、ドイツ(79件)、スイス(50件)、フランス(45件)になっています。
日本でのプロトコール承認件数は30件であり、アメリカの1,084件と比べると2.8%にしかなりません。日本での遺伝子治療は諸外国とくらべ、まだまだ遅れているのが現状です。
遺伝子治療が試みられている疾患
各器官の病気や、がんは遺伝子の異常や老化から発生している場合が多いです。
病気は、細胞の老化と共に遺伝子の損傷が蓄積して、細胞の生命維持をするタンパク質の合成が減少することにより、細胞自体の機能が低下し、やがては細胞は死滅します。器官のなかでこの様な現象が多く起こると器官自体の能力を弱めて、その結果病気が発生するのです。
がんは、遺伝子損傷にくらべ、修復が間に合わないと遺伝子の損傷が蓄積していきます。正常細胞では、がん抑制遺伝子がはたらき、この様な細胞の分裂を止めて細胞自滅へと追い込みますが、抑制遺伝子が作用しないと自滅しないで、間違った遺伝子情報のまま細胞は増殖を続けることとなります。
これががんの発生です。
がんやいろいろな病気は、遺伝子が関係していることが多く、今後は遺伝子治療は多くの病気の治療に持ち込まれていくでしょう。
現在どのような疾患について遺伝子治療が行われているのかをみると、がんが圧倒的に多く、全体の約65%を占めています。がん遺伝子治療以外では、心・血管疾患、単一遺伝子疾患、感染症となっています。また神経疾患に対しては、全体の2%しかありません。
単一遺伝子疾患は生まれながらの遺伝子異常に対する遺伝子治療の試みです。
感染症は後天的に感染を起こし、遺伝子が損傷されて細胞死となり色々な器官が損傷されます。これも薬に加え、遺伝子治療の併用が有効性を示すので研究されています。心血管系疾患の原因の多くは動脈硬化によるもので、動脈硬化を防ぐ遺伝子治療が研究されています。神経疾患では、アルツハイマー病や神経損傷に対する遺伝子治療が注目されています。