2種類の遺伝子治療
遺伝子治療とは、疾患の治療を目的として、遺伝子または遺伝子を導入した細胞をからだの中に入れる治療法です。
遺伝子治療には2つの方法があります。
- ウイルスベクター(運び屋)などに遺伝子情報を切り替える遺伝子タンパクなどをつけて、直接体内に入れる方法(体内遺伝子治療)
- 細胞を取り出して遺伝子タンパクなどを体外で導入し、その細胞を体内に戻す方法(対外遺伝子治療)があります。
一般的には、体内遺伝子治療の方が多く利用され、ベクターとしてはウイルスが多く特にアデノウイルスやレンチウイルスが使用される。
遺伝子治療の効果を決める3つの要因とは
遺伝子治療の治療タンパクは、いろいろな方法で作られるが、作り方や組成・作用方法によりその効果は様々である。
遺伝子治療の効果を決める3つの要因とは、以下の通りです。
①どのベクターを使うのか?(ウイルスベクターが主流)
遺伝子治療によく使われているウイルスベクターとしては、アデノウイルスやレンチウイルスやレトロウイルスがあります。治療に際して、遺伝子治療の治療タンパクを細胞質だけでなく核内にまで入れる必要性が求められる場合もありますが、核内まで入ることができるのはレンチウイルスとレトロウイルスで、遺伝子治療によく使われているアデノウイルスは、低頻度でしか核内にまで入り込むことは出来ません。
②何を持たせて治療を行うのか?(導入遺伝子タンパク)
遺伝子治療のベクターに何を持たせて治療を行うのかは、非常に重要です。特にがん治療の場合、がん細胞では多くのがん抑制遺伝子が機能していない場合が多い。がん治療において、なるべく多くのがん抑制遺伝子(正常細胞では存在し機能している)を入れることによって、治療効果を高めることが出来ます。
またその入れたものに対して阻害しているものがある場合には、阻害を阻止してくれるタンパクも同時に導入したほうが、より効果が高くなります。
※例えばP53は有名な、がん抑制遺伝子ですが、がん細胞では、P53はMDM2というタンパクと結合してしまい、がん細胞を自滅させる機能を失ってしまいます。P53の単独投与も有効ではありますが、このMDM2のP53に対する結合を阻止するタンパクの同時導入をしたほうが P53効果は増強します。
③どのように目的細胞で作用させるか?(作用機序・発現)
体内遺伝子治療の場合、治療タンパクは全ての細胞に行き渡ります。目的細胞にも当然到達するのですが、そこでどの様は作用機序で発現させて作用させるかが、効果を決める重要なポイントとなります。単純に投与するよりも、しっかりとした機序で目的細胞で作用させた方が 治療効果は増強するのです。
また導入した遺伝子の発現持続期間も重要で、レトロウイルスやレンチウイルスは長期間発現するのに対して、アデノウイルスの発現期間は一過性でしかありません。
治療効果を持続させる意味でも発現期間は重要なポイントになります。
遺伝子治療を選択する場合、上記3項目が治療効果を左右するので、その選択は重要でありよく検討する必要があります。
種類 | 染色体への 組み込み |
分裂細胞 への導入 |
非分裂細胞 への導入 |
遺伝子 発現期間 |
---|---|---|---|---|
レトロウイルス ベクター |
○ | ○ | × | 長期 |
レンチウイルス ベクター |
○ | ○ | ○ | 長期 |
アデノウイルス ベクター |
低頻度 | ○ | ○ | 一過性 |
アデノ随伴 ウイルスベクター |
低頻度 | ○ | ○ | 長期 |
プラスミド ベクター |
低頻度 | △ | △ | 一過性 |